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新潟地方裁判所 平成5年(わ)123号 判決

本店の所在地

新潟市寺尾二一番一五号

株式会社榊工務店

右代表者代表取締役

田村久

本店の所在地

新潟市小針八丁目一番一号

有限会社榊建設

右代表者取締役

田村久

本籍

新潟県西蒲原郡西川町大字與兵衛野新田四六番地の一

住居

同県同郡同町大字與兵衛野新田四一番地一

無職(元新潟県議会議員)

田村鐡舟

昭和一九年二月一九日生

本籍

新潟市寺尾二一番

住居

同市小針八丁目一番一号

会社役員

田村久

昭和二三年六月一日生

右株式会社榊工務店及び有限会社榊建設に対する法人税法違反、田村鐡舟及び田村久に対する法人税法違反、有印公文書偽造、同行使各被告事件について、当裁判所は、検察官中井國緒出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社榊工務店を罰金五〇〇〇万円に、被告人有限会社榊建設を罰金一五〇〇万円に、被告人田村鐡舟を懲役二年及び罰金三〇〇〇万円に、被告人田村久を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

被告人田村鐡舟及び被告人田村久に対し、未決勾留日数中各一八〇日を、それぞれの懲役刑に算入する。

被告人田村鐡舟及び被告人田村久において、その罰金を完納することができないときは、それぞれ金三〇万円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

被告人田村鐡舟及び被告人田村久から、新潟地方検察庁で保管中の宅地建物取引業者免許申請書(平成五年新地領第二〇三号符号一一四一-一)に添付されている納税証明書三通の各偽造部分を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社榊工務店(以下「被告会社榊工務店」という。)は、新潟市寺尾二一番一五号に本店を置き、不動産売買及びその斡旋等を営む会社、被告人有限会社榊建設(以下「被告会社榊建設」という。)は、同市小針八丁目一番一号に本店を置き、建設業等を営む会社、被告人田村鐡舟は、被告会社榊工務店の実質的な経営者として、その業務に関与し、かつ、被告会社榊建設の取締役として、その業務全般を統括していた者、被告人田村久は、被告会社榊工務店の代表取締役として、その業務全般を統括し、かつ、被告会社榊建設の実質的な経営者として、その業務に関与していた者であるが、

第一  被告人田村鐡舟及び被告人田村久の両名は、共謀の上、被告会社榊工務店の業務に関し、法人税を免れようと企て、他人名義の預金口座を開設する等の方法により所得を秘匿した上、昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五億四六八二万八四七七円(別紙(一)修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金が五億九一九二万九〇〇〇円であり、これに対する法人税額が四億〇六二八万六四〇〇円であったのにかかわらず、右法人税の納期限である平成元年一一月三〇日までに、所轄新潟税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における法人税額四億〇六二八万六四〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ、

第二  被告人田村鐡舟は、被告会社榊建設の取締役として、その業務に関与していた山岸利之と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上する方法により所得を秘匿した上、昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一九五六万六二二二円(別紙(二)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、同市営所通六九二番地の五所在の所轄新潟税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二六万八〇三〇円でこれに対する法人税額が三八万〇四〇〇円である旨を記載した内容虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第三二号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七二五万七七〇〇円と右申告額との差額六八七万七三〇〇円(別紙(五)脱税額計算書参照)を免れ、

第三  被告人田村鐡舟及び被告人田村久の両名は、前記山岸利之と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産取引に被告会社榊工務店を介在させる等の方法により所得を秘匿した上、平成元年一〇月一日から同二年九月三〇日までの事業年度における被告会社榊建設の実際所得金額が一億五四三七万七七八八円(別紙(三)修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金が一億八三一七万七〇〇〇円であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、前記所轄新潟税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一二万二三二六円、課税土地譲渡利益金が零でこれに対する法人税額が三二万五三〇〇円である旨を記載した内容虚偽の法人税確定申告書(同号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一五八二万三九〇〇円と右申告額との差額一億一五四九万八六〇〇円(別紙(六)脱税額計算書参照)を免れ、

第四  被告人田村鐡舟及び被告人田村久の両名は、前記山岸利之と共謀の上、平成二年一月二〇日ころ、前記被告会社榊建設の本店事務所において、行使の目的をもって、ほしいままに、あらかじめ入手した同年一月一七日付け新潟税務署長朝比奈和三発行にかかる同税務署長の記名押印のある被告会社榊建設宛納税証明書三通(事業年度が昭和六二年九月期のもの、同六三年九月期のもの、平成元年九月期のもの各一通)の請求人欄に「有限会社榊建設、代表取締役田村鐡舟」とあるのを砂消しゴムで抹消し、同欄に事業年度が昭和六二年九月期及び同六三年九月期の右各納税証明書については、「株式会社榊工務店、代表取締役田村鐡舟」と、平成元年九月期の右納税証明書については、「株式会社榊工務店、代表取締役田村久」と刻した記名判をそれぞれ押し、もって、新潟税務署長作成名義の被告会社榊工務店宛納税証明書三通を偽造した上、伝川優子をして、同二年二月六日、同市川岸町三丁目一八番一号所在の新潟土木事務所において、同所係員に対し、被告会社榊工務店代表取締役田村久名義の宅地建物取引業者免許申請書の添付資料として、右偽造にかかる納税証明書三通を真正に成立したもののように装い、これを一括して提出行使し

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人田村鐡舟及び被告人田村久の当公判廷における各供述

一  被告人田村鐡舟の検察官に対する平成五年五月二三日付け供述調書

判示第一、第三及び第四の各事実について

一  被告人田村久の検察官に対する平成五年六月二四日付け供述調書(九丁のもの)

判示第一及び第三の各事実について

一  被告人田村鐡舟の検察官に対する平成五年六月二日付け供述調書(五丁のもの)

一  山岸利之(平成五年六月一日付け(二丁のもの))、田村裕子(同年四月二七日付け)、伝川優子(同月一八日付け)、外山正範、鈴木嘉道(同年五月二六日付け(二通))、水上久雄(同月二二日付け(三丁のもの))及び田中勝彦の検察官に対する各供述調書

判示第一の事実について

一  被告人田村鐡舟(平成五年五月一五日付け、同月一八日付け、同月一九日付け、同月二一日付け(一一丁のもの)、同月二四日付け(六丁のもの)、同月二七日付け(四丁のもの及び五丁のもの)、同月二八日付け(二通)、同月三〇日付け、同年六月一日付け及び同月二日付け(四丁のもの及び二丁のもの))及び被告人田村久(同年五月一九日付け、同月二一日付け(六丁のもの)、同月二二日付け、同月二五日付け、同月二七日付け、同月二八日付け、同月二九日付け、同月三一日付け及び同年六月一日付け)の検察官に対する各供述調書

一  山岸利之(平成五年五月二一日付け、同月二二日付け(二通)、同月二四日付け(四四丁のもの)、同月二五日付け、同月二七日付け、同月二八日付け(二通)及び同月三一日付け)、渡辺栄信(二通)、鈴木嘉道(同年四月三〇日付け及び同年五月二九日付け)、小柳フサ、長谷川隆二、水上久雄(同月二二日付け(七丁のもの))、渡部憲司、藤巻元雄、鈴木裕徳(三通)、新保勝弘、武藤裕一、田辺厚(同月二五日付け)、弘中貞夫、西山進昭、吉野勝巳、田村彰子(同月二九日付け及び同年六月二日付け)、坪井正明、堀内公、松田信義、伊藤恵介及び青柳徹の検察官に対する各供述調書

一  小柳フサ(二通)、田村裕子(平成四年六月一七日付け及び同五年一月一四日付け)、栗林力及び金子栄治の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、受取手数料調査書、賃貸収入調査書、期首棚卸高調査書、当期仕入高調査書、平成五年三月一五日付け外注費調査書、期末棚卸高調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、交際費調査書、支払保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、役員報酬調査書、雑費調査書、賃借料調査書、同日付け支払手数料調査書、諸会費調査書、和解金調査書、補償金調査書、同日付け受取利息調査書、受取配当金調査書、同日付け雑収入調査書、支払利息調査書、交際費の損金不算入額調査書、同日付け事業税認定損調査書、同日付け道府県民税利子割額調査書及び土地譲渡利益金額の計算書(被告会社榊工務店に関するもの)

一  検察事務官作成の平成五年六月三日付け捜査報告書

一  新潟税務署長菊池幸久作成の「課税状況の回答書」と題する書面「被告会社榊工務店に関するもの)

判示第二ないし第四の各事実について

一  分離前の相被告人山岸利之の当公判廷における供述

判示第二及び第三の各事実について

一  山岸利之の検察官に対する平成五年五月二四日付け供述調書(七丁のもの)

判示第二の事実について

一  被告人田村鐡舟の検察官に対する平成五年六月二三日付け供述調書(三八丁のもの)

一  山岸利之(平成五年六月二二日付け)及び田村裕子(同月二三日付け)の検察官に対する各供述調書

一  山岸利之及び田村裕子(平成四年一二月三日付け)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の平成五年六月二四日付け外注費調査書

一  新潟税務署長菊池幸久作成の「課税状況の回答書」と題する書面(被告会社榊建設の平成元年九月期に関するもの)

一  押収してある平成元年九月期法人税確定申告書(平成五年押第三二号の1)

判示第三の事実について

一  被告人田村鐡舟(平成五年六月一五日付け(一九丁のもの)、同月一七日付け及び同月二一日付け(三四丁のもの)及び被告人田村久(同月七日付け、同月一〇日付け、同月一一日付け、同月一四日付け、同月一六日付け、同月一七日付け、同月一八日付け、同月二〇日付け、同月二二日付け、同月二三日付け三通(二丁のもの、四丁のもの及び一〇丁のもの)及び同月二四日付け(四丁のもの))の検察官に対する各供述調書

一  山岸利之(平成五年六月六日付け、同月九日付け、同月一三日付け、同月一九日付け、同月二〇日付け、同月二一日付け、同日二三日付け(二通)及び同月二四日付け)、奥浜敏勝(二通)、山口哲、佐藤正文(同年四月二八日付け、同年五月一一日付け及び同年六月六日付け(一二丁のもの))、苅部正、中村勇、小杉哲夫(同年四月一九日付け)、入倉宗、植木東一及び田村修(五通)の検察官に対する各供述調書

一  田村裕子の大蔵事務官に対する平成五年一月一三日付け質問てん末書(四五丁のもの)

一  大蔵事務官作成の平成五年六月二四日付け支払手数料調査書、同日付け受取利息調査書、同日付け雑収入調査書、固定資産売却益調査書、同日付け事業税認定損調査書、同日付け道府県民税利子割額調査書、その他所得調査書及び土地譲渡利益金額の計算書(被告会社榊建設に関するもの)

一  検察事務官作成の平成五年六月二四日付け捜査報告書

一  新潟税務署長菊池幸久作成の「課税状況の回答書」と題する書面(被告会社榊建設の平成二年九月期に関するもの)

一  押収してある平成二年九月期確定申告書(平成五年押第三二号の2)

判示第四の事実について

一  被告人田村鐡舟(平成五年五月一六日付け)及び被告人田村久(同年六月二日付け及び同月二三日付け(一二丁のもの))の検察官に対する各供述調書

一  山岸利之の検察官に対する平成五年五月一九日付け、同月二〇日付け及び同年六月一日付け(一七丁のもの)各供述調書

一  伝川優子(同年四月二九日付け)、須貝幸子及び高橋俊一の検察官に対する各供述調書

一  新潟県土木部都市整備局建築住宅課長作成の平成五年七月二二日付け「捜査関係事項について(回答)」と題する書面

一  株式会社榊工務店名義の宅地建物取引業者免許申請書

(事実認定の補足説明)

一  判示第一の事実について

弁護人らは、被告人田村鐡舟及び被告人田村久には、被告会社榊工務店の法人税につき、これを逋脱する意思がなかったのみならず、共謀に関与したこともない上、被告人田村鐡舟は同会社の業務に関与したこともない旨主張するので、以下この点について補足説明する。

関係各証拠によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

1  被告人田村鐡舟は、昭和五二年一二月、被告会社榊工務店が設立された際、その代表取締役に就任し、同六一年に被告会社榊建設の代表取締役に就任したことに伴い、被告会社榊工務店の代表取締役を辞任したが、その後、本件犯行に至るまでの間、被告会社榊工務店の不動産取引等に関し、契約の交渉や銀行折衝等の対外的な事務を担当していた。

2  被告会社榊工務店は、同五九年ころから度重なる不動産投資の失敗等により約七億円の負債を抱えるに至った。そこで、同六一年九月三〇日、収益性の高い土木建築部門を被告会社榊建設に譲渡し、以後収益性の低い不動産売買業のみを細々と営むようになったため、同六二年九月期以降、法人税確定申告書を提出しておらず、山岸利之が、被告人田村鐡舟及び被告人田村久に対し、右申告書の作成提出方を促しても、同被告人らはこれに応じなかった。

3  被告人田村久は、ゴルフ場等のリゾート開発用地として、新潟県東蒲原郡三川村大字上戸谷渡地内の山林(以下「三川物件」という。)に着目し、同六二年春ころ、被告会社榊工務店の取引先である富士興産株式会社(以下「富士興産」という。)から三川物件に関する測量費用等の資金援助を取り付ける一方、右物件の共有権者である渡辺ソヤ一族を探し出し、その代表者渡辺榮信と売買交渉を行った。しかし、同被告人には信用度の点で難点があったため、同被告人に代わり、被告人田村鐡舟がこれを担当することになった。そして、種々交渉の結果、同六三年八月六日、被告会社榊工務店が、渡辺ソヤ一族から三川物件(二五〇・六九町歩)を代金二億五〇六九万円で買い取る旨の売買契約が成立した。それと並行して、株式会社福田組(以下「福田組」という。)との間で売買交渉を行ったところ、同年九月ころまでの間に、福田組から三川物件のうち、合計一六〇町歩を購入したい旨の申し入れを受けた。

4  被告人田村鐡舟及び被告人田村久は、常日ごろ、被告会社榊工務店の運転資金や、被告人田村鐡舟が立候補を予定していた新潟県議会議員選挙の選挙資金を確保しておこうと考えていたところ、右取引により多額の利益が生じたことを被告会社榊工務店の大口債権者に知れわたって厳しい取立てがなされ、また、利益をそのまま計上して納税申告を行うと、土地重課税を含めた多額の法人税を納付しなければならなくなることなどを慮って、同年八月ころから同年九月ころまでの間に、再三にわたり、所得の秘匿工作について相談した。そして、その手段として、富士興産や福田組に対し、三川物件の仕入値は、一六〇町歩で合計約七億円である旨虚偽の事実を伝えると共に、福田組から売買代金の支払いを受けるに際し、真実の仕入値と虚偽の仕入値との差額約四億五〇〇〇万円の授受につき渡辺ソヤ名義の預金口座を利用することとした。

5  そこで、被告人田村鐡舟は、同年九月ころ、三川物件のうち、福田組に売却予定の一六〇町歩を二分し、その仕入値を過大に仮装して、一方を売主渡辺ソヤ、買主富士興産とし、その売買代金を一億〇五〇〇万円とする契約書、他方を売主渡辺ソヤ、買主被告会社榊工務店とし、その売買代金を六億五五〇〇万円とする契約書を、いずれも渡辺ソヤに無断で作成した上、これを富士興産の担当者に渡し、更に、福田組や富士興産の担当者らに対し、右売買代金が渡辺ソヤらに支払われるかの如く仮装するため、同人に無断で巻信用組合西新潟支店に同人名義の普通預金口座を開設した。

6  被告人田村鐡舟及び被告人田村久は、同年八月ころ、「榊工務店から渡部に金が渡ったようにみせかけるために、その印を作ろう。一億五〇〇〇万円位入金した跡をつけて、実際に払う数千万円との差額を出そう。」などと言って相談し、三川物件に関し、地権を主張する渡部弘司に対し、立木補償等の対策費として過大な経費を支払ったように仮装し、右物件に関する取引につき税務当局の調査を受けた場合には、右経費を支払った旨主張することとした。そこで、山岸利之に指示して、同年八月二三日に、北陸銀行新潟支店に渡部弘司名義の普通預金口座を同人に無断で開設させた上、同年一〇月三日までの間に、その預金口座に入出金を繰り返して、入金累計額が合計一億五二〇〇万円になるように操作した。更に、被告人田村鐡舟は、同日、三川物件について、渡部弘司を売主、代金を一億五二〇〇万円とする内容虚偽の売渡証を作成した。

7  その後、三川物件の買主が、福田組の都合で、福田道路株式会社(以下「福田道路」という。)に変更されたので、被告人田村鐡舟は、福田道路から右物件の売買代金として、同年一二月一五日及び平成元年一月一七日の二回にわたり、合計一〇億四〇二五万円を三四通の小切手で受領し、そのうちの合計四億一七〇〇万円を前記渡辺ソヤ名義の預金口座に振り込み、同額が渡辺ソヤらに支払われたかのように仮装した。

8  被告人田村鐡舟は、同年一月下旬ころから同年二月上旬ころまでの間に、被告人田村久から、「仕入れの他に経費がかかったことにしよう。金を二億円位動かして東京方面にプールしよう。南山憲司は、元々東京の人間で渡部弘司と関係があるから、南山の名前で口座を作れば経費がかかったことにみせるにはいいのではないか。」などと言われて、これに賛同した上、同月一三日、山岸利之に指示して、太陽神戸銀行鶴見支店に南山憲司名義の預金口座を開設し、その口座に渡辺ソヤ名義の預金口座から七五〇〇万円を送金し、更に、翌一四日、渡辺ソヤ名義の預金口座から渡部弘司名義の預金口座を経由して、南山憲司名義の預金口座に一億五〇〇〇万円を送金し、翌一五日から同年六月二九日までの間にその全額を払い戻した。そして、これを原資として、東京海上火災の一時払傷害保険(口数合計一四二口、金額合計八三五九万二五〇〇円)に加入し、更に、三条信用金庫小針支店に被告会社榊建設の従業員名義の借名定期預金を設定するなどした。

9  被告人田村鐡舟及び被告人田村久は、被告会社榊工務店の平成元年九月期の法人税の確定申告期限である同年一一月三〇日、山岸利之にその法人税確定申告書等の作成を促されたため、被告人田村鐡舟において、三川物件の売買利益につき架空経費を計上して、同期における所得が零となる旨を記載したメモ一枚を作成し、これを新潟税務署長に提出したのみで、被告会社榊工務店の法人税確定申告書を提出せず、そのまま法定の納期限を徒過させた。

以上認定した事実に徴すれば、被告会社榊工務店の実質的な経営者、あるいはその代表取締役の地位にあった被告人田村鐡舟及び被告人田村久が、共謀の上、被告会社榊工務店の平成元年九月期における法人税を免れようと企て、他人名義の預金口座を開設し、あるいは架空の経費を作出して同会社の所得を秘匿するなどの不正な行為により、右法人税を免れたものであることは優に認定できる。

これに反し、被告人田村鐡舟は、捜査段階のみならず、公判段階において、また、被告人田村久は、公判段階において、それぞれ所論に副う供述をしているが、右各供述は、それ自体いずれも極めて曖昧かつ不自然であることに加え、被告人田村鐡舟、被告人田村久及び山岸利之の捜査段階(被告人田村鐡舟については右所論に副う供述部分を除く。)における各供述、その他の関係各証拠に対比し、いずれも到底信用することができないから、弁護人らの右主張は採用するに由ないところである。

弁護人らは、被告人田村久が平成元年四月一〇日に行われた国税当局の税務調査に際し、三川物件の購入代金は約二億五〇〇〇万円である旨真実の回答をしていることに照らし、被告人田村鐡舟及び被告人田村久に脱税の意思はなかったことが明らかである旨主張するところ、伊藤恵介及び青柳徹の検察官に対する各供述調書によれば、所論に副う事実を認めることができる。しかし、その一事から判示第一の納期限である平成元年一一月三〇日当時においても、右被告人らに逋脱の意思がなかったとは到底いえない筋合いである。のみならず、すでに説示したとおり、被告人田村鐡舟及び被告人田村久は、被告会社榊工務店の同年九月期における所得について、他人名義の預金口座を開設したり、架空経費を作出するなどして、所得を秘匿しているばかりでなく、三川物件の売買利益について内容虚偽のメモ一枚を作成し、これを新潟税務署長に提出しているに過ぎず(右メモの提出をもって所得秘匿の意思を否定することはできない。)、正規の法人税確定申告書を提出しないで、そのまま納期限を徒過させているのであって、これらの諸事情に照らすと、所論にもかかわらず、被告人らが逋脱の意思を有していたことは極めて明白であるから、所論は採用することができない。なお、弁護人らは、被告人田村鐡舟及び被告人田村久が三川物件を売却するに際し、仕入価格の水増計上したのは、被告会社榊工務店の大口債権者に売買益の額を知られないようにするためであって、脱税を目的としたものではない旨主張するが、仮に、所論のとおりであったとしても、法定の納期限までに確定申告書を提出しない以上、右の水増計上が所得の秘匿手段と考えざるを得ないのであって、この点の所論も失当たるを免れない。

更に、弁護人らは、被告人田村鐡舟が土地重課制度につきよく知らなかった旨主張するが、同被告人は、捜査段階においては勿論、公判段階においても、土地取引きによる利益について、通常の法人税とは別に税金が課せられることを承知していた旨供述しているほか、関係各証拠によれば、同被告人は、長い間職務として不動産取引きに携わって来たこと、以前被告会社榊工務店の法人税の確定申告をした際、関与税理士事務所の職員から土地重課制度の説明を受けていたことが認められる。右のような事情に照らすと、被告人田村鐡舟は土地重課制度を十分承知していたものというべきであって、論旨は理由がないことが明らかである。

二  判示第二の事実について

弁護人らは、被告会社榊建設において、平成元年九月期の所得を秘匿しておらず、したがって、その法人税確定申告書の記載した内容は真実に合致するものであり、また、被告人田村鐡舟は、被告会社榊建設の業務全般を統括していたことは勿論、法人税法違反の事実につき、山岸利之と共謀した事実もない旨主張するので、以下この点について補足説明する。

山岸利之の検察官に対する各供述調書、その他関係各証拠によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

1  昭和六三年一〇月から平成元年九月までの間に、被告会社榊建設が公成建設株式会社(以下「公成建設」という。)へ支払った外注費は、合計一〇七三万四六二〇円である。山岸利之は、同年一一月ころ、被告会社榊建設の同年九月期における所得につき、仮決算を組んだところ、予想に反し、約二六〇〇万円の営業利益及び約一四〇〇万円の純利益が見込まれたので、被告人田村鐡舟に対し、これを圧縮するためには、公成建設へ架空外注費約一八〇〇万円を計上する必要がある旨進言して、被告人田村鐡舟の同意を得た。

2  そこで、山岸利之は、公成建設への架空外注費一八二九万八一九二円を追加計上して、被告会社榊建設の平成元年九月期における決算書及び法人税確定申告書を作成し、更に、被告人田村鐡舟に対し、右申告書を示して、外注費の架空計上や、水増計上を説明した上、その了承を得て右確定申告書を新潟税務署長に提出した。

以上認定した事実に徴すれば、被告人田村鐡舟は、山岸利之と共謀の上、架空外注費を計上する方法により被告会社榊建設の平成元年九月期における所得を秘匿し、内容虚偽の法人税確定申告書を提出したことは優に認定でき、右申告書の記載内容が真実に合致するものとは到底考えられない。なお、判示第二の犯行当時、被告人田村鐡舟が被告会社榊建設の取締役の地位にあって、その業務全般を統括していたことは関係証拠上明白である。

これに反し、被告人田村鐡舟は、捜査段階から所論に副う供述をしているが、その供述自体極めて曖昧かつ不自然であるばかりでなく、山岸利之の検察官に対する各供述調書によれば、山岸利之は、右犯行当時、被告会社榊建設の経理事務等を担当していた者であるが、被告会社榊建設の決算や確定申告に関する事務を執り行うに当たり、すべて被告人田村鐡舟の指示を受け、かつ、それに従っていたことが認められるのであって、このような諸事情に鑑みれば、被告人田村鐡舟の右供述は到底信用できず、弁護人らの右主張は採用することができない。

三  判示第三の事実について

弁護人らは、被告会社榊建設及び被告会社榊工務店間の小針ロイヤルビルの売買は実体に即した取引きであり、被告人田村鐡舟及び被告人田村久が新潟税務署長に提出した被告会社榊建設における平成二年九月期の法人税確定申告書の記載内容は事実に合致するものである旨主張するので、以下この点について補足説明する。

関係各証拠によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

1  被告会社榊建設は、平成元年一月二三日、日東土地株式会社から新潟市松美台所在の小針ロイヤルビルを二億八五〇〇万円で購入したが、右購入資金の金利や維持費がかさみ、同ビルの賃料収入をもって右経費を賄うことが困難な状況に陥った。そのため、被告人田村鐡舟及び被告人田村久は、同年一二月ころ、同ビルを売却することに決した。しかし、これを第三者に売却すると、短期の土地譲渡に該当するため、その売却益に対し、多額の土地重課税が課されて、売却益の大半を失うことになるので、右ビルの売却益を秘匿し、これに対する課税を免れようと考えた。そこで、被告人田村久は、そのころ、被告人田村鐡舟及び山岸利之に対し、「小針ロイヤルビルは榊建設から榊工務店に売った形にして榊工務店から売却したことにしよう。榊建設の税務処理はうまくやってくれ。」などと提案し、その了承を得たので、同ビルの売買について、中間に無申告法人である被告会社榊工務店を介在させて、その売却益の大半を被告会社榊工務店に帰属させることとした。

2  山岸利之は、平成二年二月初めころ、北陸地所株式会社の佐藤正文に対し、「小針ロイヤルビルは榊建設所有の物件だ。五億で引合いが来ている。五億円以上で売りたい。」、「小針ロイヤルビルは榊建設の所有だが、売る時は榊工務店の名前で売りたい。」などと伝えて、小針ロイヤルビル売買の仲介を依頼したところ、同年三月二〇日ころに至り、川辺建物新潟株式会社(以下「川辺建物」という。)が五億二五〇〇万円で小針ロイヤルビルを購入することになった。そこで、山岸利之は、同月下旬ころから同年四月初めころまでの間に、右佐藤に対し、「榊建設が榊工務店に売却して、更に川辺建物に売却した形にするので、両方の仲介に入って領収書を二本出してくれ。仲介料として、一五〇〇万円出すので、榊建設への領収書として五〇〇万円の空領収書を出してくれ。」などと言って依頼した。その結果、同年七月一八日、川辺建物から小針ロイヤルビルの代金を受け取る際、右佐藤から、売買仲介料として一五〇〇万円を受領した旨記載されている領収書と共に、被告会社榊建設と被告会社榊工務店との間の売買に関し、その仲介料として五〇〇万円を受領した旨記載されている内容虚偽の領収書を受け取った。

3  山岸利之は、同年五月ころから六月ころまでの間に、被告人田村鐡舟及び被告人田村久の実弟である田村修に対し、「榊建設から榊工務店へのロイヤルビルの不動産売買契約書を作ってくれ。契約書の日付は遡らせて書いてくれ。」と言って、売買契約書の作成方を依頼した。同人は、右依頼の趣旨に従い、「売買金額を三億一〇四七万五〇〇〇円とし、そのうち一八〇〇万円については契約当日の平成二年二月一五日に、内金二五〇〇万円については、同年五月三一日までに、残金二億六七四七万五〇〇〇円については、同年七月三一日までにそれぞれ支払う。」旨記載されている被告会社榊建設と被告会社榊工務店の間の売買契約書を同年二月一五日付けで作成した。

4  次いで、山岸利之は、同年六月一日付けで、被告会社榊建設と被告会社榊工務店との間において締結された売買契約が真実のものであることを仮装するため、被告会社榊建設の仕訳伝票に、小針ロイヤルビルの売買代金三億一〇四七万五〇〇〇円を未収金として計上すると共に、前記架空の売買契約書に符合させるため、被告会社榊工務店から仮受金合計三三〇〇万円(同元年一二月二三日分一〇〇〇万円、同二年二月一五日分八〇〇万円、同年五月三一日分一五〇〇万円)を預り金に振り替え、更に、同年六月七日付けで、被告会社榊工務店から定期預金一〇〇〇万円を受入れたこととし、合計四三〇〇万円を右未収金に充当された旨計上した。

以上認定した事実に徴すれば、被告人田村鐡舟、被告人田村久及び山岸利之は、共謀の上、小針ロイヤルビルの売買に関し、被告会社榊工務店を介在させる等の方法により、被告会社榊建設の平成二年九月期における所得を秘匿した上、所轄税務署長に対し、内容虚偽の法人税確定申告書を提出したものであることは優に認定でき、右申告書の記載内容が真実に合致するものとは到底考えられない。

これに反し、被告人田村鐡舟は捜査段階から、被告人田村久は公判段階から、所論に副う供述をしているが、右各供述は、いずれも極めて曖昧かつ不自然であることに加え、被告人田村久及び山岸利之の捜査段階における各供述に対比し、いずれも到底信用することができない。したがって、弁護人らの右主張は採用することができない。

四  判示第四の事実について

弁護人らは、被告人田村鐡舟が山岸利之と共謀した事実はない旨主張するので、以下この点について補足説明する。

関係各証拠によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

1  被告会社榊工務店は、昭和六二年四月二八日、新潟県西蒲原郡巻町仁箇の県養鶏場跡地について、自主開発することを条件として、三億〇八〇一万円で落札購入したので、これを同年八月二八日昭和住設株式会社に九億円で売却することとしたが、その売却条件として、被告会社榊工務店において、新潟県から都市計画法上の開発許可を取り付ける約束をしたものの、右開発許可の申請を行うためには、申請人において、宅地建物取引業の免許を有していることが必要であり、被告人田村鐡舟もこのことを十分承知していた。

2  宅地建物取引業の免許は、三年ごとに更新を受けなければならず、しかも、更新に際し、その申請書に免許申請者の納税証明書を添付しなければならないこと、被告会社榊工務店では同六一年九月期を最後に、法人税を納付していないこと、被告会社榊工務店の宅地建物取引業免許の有効期限が平成二年三月に迫っていたこと、以上の事実を被告人田村鐡舟、被告人田村久及び山岸利之は知っていた。

3  山岸利之は、同年一月ころ、被告人田村久に対し、「工務店の宅建免許が切れるので更新しないといけない。榊建設の納税証明書を榊工務店の名前に書き換えて出すしかない。」などと説明したところ、同被告人が、「そうするしかないさ。」と答え、更に、そのころ、被告人田村鐡舟に対しても、「榊建設で納税証明書を貰い、それを榊工務店の納税証明書に書き換えて提出する以外に方法がない。」などと説明したところ、同被告人も、「それでできるなら、その方法でもいいからやれ。」と言って、納税証明書の書き換えを指示した。

以上認定した事実に徴すれば、新潟税務署長作成の納税証明書三通を偽造して、これを一括行使することにつき、被告人田村鐡舟は、被告人田村久及び山岸利之と共謀としたものであることは優に認定できる。

これに反し、被告人田村鐡舟は、公判段階で所論に副う供述をしているが、右供述は、極めて曖昧かつ不自然である上、被告人田村鐡舟、被告人田村久及び山岸利之の捜査段階における各供述に対比し、到底信用することができないから、右主張も採用の限りでない。

(法令の適用)

一  被告人田村鐡舟及び被告人田村久の判示第一の所為は、被告会社榊工務店の業務に関してなされたものであるから、被告会社榊工務店については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社榊工務店を罰金五〇〇〇万円に処することとする。

二  被告人田村鐡舟及び山岸利之の判示第二の所為、被告人田村鐡舟、被告人田村久及び山岸利之の判示第三の所為は、いずれも被告会社榊建設の業務に関してなされたものであるから、被告会社榊建設については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社榊建設を罰金一五〇〇万円に処することとする。

三  被告人田村鐡舟の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第四の所為のうち、有印公文書の各偽造の点は、いずれも刑法六〇条、一五五条一項に、偽造有印公文書の一括行使の点は、いずれも同法六〇条、一五八条一項、一五五条一項にそれぞれ該当するとろ、判示第四の偽造有印公文書の一括行使は、一個の行為で三個の罪名に触れる場合であり、有印公文書の各偽造とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として犯情の最も重い偽造有印公文書(昭和六二年九月期の納税証明書に関するもの)行使罪の刑で処断すべく、判示第一ないし第三の罪についてはいずれも所定の懲役刑と罰金刑を併科することとした上、情状により法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第四の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示第一ないし第三の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人田村鐡舟を懲役二年及び罰金三〇〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一八〇日を右懲役刑に算入することとし、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金三〇万円を一日に換算した期間被告人田村鐡舟を労役場に留置し、新潟地方検察庁で保管中の宅地建物取引業者免許申請書(平成五年新地領第二〇三号符号一一四一-一)に添付されている納税証明書三通の各偽造部分は、いずれも判示第四の偽造有印公文書行使の犯罪行為を組成した物であって、何人の所有をも許さないものであるから、同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを被告人田村鐡舟から没収することとする。

四  被告人田村久の判示第一及び第三の各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第四の所為のうち、有印公文書の各偽造の点は、いずれも刑法六〇条、一五五条一項に、偽造有印公文書の一括行使の点は、いずれも同法六〇条、一五八条一項、一五五条一項にそれぞれ該当するところ、判示第四の偽造有印公文書の一括行使は、一個の行為で三個の罪名に触れる場合であり、有印公文書の各偽造とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として犯情の最も重い偽造有印公文書(昭和六二年九月期の納税証明書に関するもの)行使罪の刑で処断すべく、判示第一及び第三の罪についてはいずれも所定の懲役刑と罰金刑を併科することとした上、情状により法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第四の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示第一及び第三の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人田村久を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一八〇日を右懲役刑に算入することとし、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金三〇万円を一日に換算した期間被告人田村久を労役場に留置し、新潟地方検察庁で保管中の宅地建物取引業者免許申請書(平成五年新地領第二〇三号符号一一四一-一)に添付されている納税証明書三通の各偽造部分は、いずれも判示第四の偽造有印公文書行使の犯罪行為を組成した物であって、何人の所有をも許さないものであるから、同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを被告人田村久から没収することとする。

(量刑の理由)

一  本件は、判示のような不正な方法を用いて、(1)被告人田村鐡舟及び被告人田村久が共謀の上、被告会社榊工務店の平成元年九月期における法人税四億〇六二八万円余りを逋脱し(判示第一の犯行)、(2)被告人田村鐡舟が山岸利之と共謀の上、被告会社榊建設の平成元年九月期における法人税六八七万円余りを逋脱し(判示第二の犯行)、(3)被告人田村鐡舟及び被告人田村久が山岸利之と共謀の上、被告会社榊建設の同二年九月期における法人税一億一五四九万円余りを逋脱し(判示第三の犯行)、更に、(4)被告人田村鐡舟及び被告人田村久が山岸利之と共謀の上、宅地建物取引業の免許(被告会社榊工務店名義のもの)を更新するに当たり、新潟税務署長作成にかかる被告会社榊工務店宛の納税証明書三通を偽造し、これを一括して提出行使した(判示第四の犯行)という事案である。

二  判示第一ないし第三の各犯行は、右にみたとおり、二法人の三事業年度にわたる逋脱額が合計五億二八六六万円余りにも及んでいる上、その逋脱率が判示第一については一〇〇パーセント、判示第二については約九四・七パーセント、判示第三については約九九・七パーセントといずれも高率であって、正規の法人税のほぼ全額を免れたという極めて悪質な犯行であることはもとより、その結果、国の租税収入を著しく害した点で被告人らの各所為(但し、被告人田村久について判示第二を除く。)は強く非難されなければならない。

右の各犯行は、被告人田村鐡舟及び被告人田村久の兄弟が実質的に経営し、あるいはその業務全般を統括していた被告会社榊工務店及び被告会社榊建設の運転資金等のほか、被告人田村鐡舟が立候補を予定していた新潟県議会議員選挙の選挙費用を確保しようとしたものであって、その動機には何ら酌むべきものが認められない。しかも、被告人らの用いた犯行の手口は、地上げした土地を転売し、あるいは所有ビルを売却した際、いわゆる土地重課税を含めた多額の法人税が課されることを慮り、これを免れるため、予め経費を過大に計上したばかりでなく、右の各取引による利益を無断で開設した他人名義の預金口座に振り込むなどして秘匿し(判示第一の犯行)、更に、架空の売買契約書を作成するなどの方法により、右取引の中間に無申告法人の被告会社榊工務店を介在させて所得の圧縮を図った(判示第三の犯行)ほか、決算に当たり、外注費を水増し計上する(判示第二の犯行)などしたものであって、いずれも計画的かつ巧妙な犯行である。そして、このようにして秘匿した利益が被告人田村鐡舟の二度にわたる県議会議員選挙の費用等に費消されていることも看過することはできない。加えて、本件各法人税の本税のみならず、その付帯税についても、未だに、納付されておらず、これらを納付しようと努力した形跡も全く窺えないのであって、被告人らの納税意識の欠如が顕著である。そればかりか、被告会社榊工務店から収益性の高い土木建築部門の譲渡を受けた被告会社榊建設は、本件について告発を受けた直後ころ、別法人の株式会社サカキエステートに営業を譲渡したため、両被告会社とも法人としての実体を失っており、被告会社らから、本件各法人税を徴収することは事実上不可能な状況に至っている。

また、被告人田村鐡舟及び被告人田村久は、被告会社榊工務店が宅地建物取引業の免許を更新する際に、新潟税務署長作成にかかる納税証明書を偽造して、これをその添付資料として提出し、その結果、右免許を不正に取得しているのであって、私企業の都合を優先させたその動機には何ら酌むべき事情が認められず、公文書である納税証明書の信用を害した点でも強く非難されるべきである。

三  被告人田村鐡舟は、判示第一の犯行について、被告人田村久と共にこれを計画立案し、虚偽の売買契約書を作成し、あるいは他人名義の預金口座を開設したほか、売却利益の秘匿等について自ら中心になって行い、判示第三の犯行についても、計画立案の段階から関与して、不動産の売却先との間で協定書や売買契約書を作成して取り交わし、更に、代金決済の席にも出席して、売却代金を他人名義の預金口座に移したりするなど、事前の所得秘匿工作に深く関わって中枢的役割を果たしているばかりか、判示第二及び第四の各犯行についても、被告会社榊工務店及び被告会社榊建設の実質的経営者として、山岸利之の提案する所得秘匿工作や納税証明書の偽造に積極的に応じるなど、その関与の程度が強い上、判示第一の犯行によって得た利益のうち、少なくとも合計約一億六〇〇〇万円を二度にわたる県議会議員選挙の選挙費用に費消して、一度は当選を果たしており、判示第三の犯行によって得た利益から約六七四万円を一時払生命保険の保険料の支払いに充てるなど、本件一連の法人税法違反によって、極めて多額の利益を得ていることに鑑み、同被告人の刑責は極めて重大であるといわざるを得ない。

被告人田村久は、判示第一及び第三の各犯行について、その計画を立案したものであって、極めて重大な役割を果たしたばかりか、判示第四の犯行についても、被告会社榊工務店の実質的経営者として、山岸利之の提案に積極的に応じるなど、その関与の程度が強い上、判示第三の犯行によって得た利益から、合計約四五〇〇万円を費消するなど、多額の利益を得ており、以上の諸点に徴すると、同被告人の刑責も重大といわざるを得ない。

四  してみると、被告人田村鐡舟は、本件各犯行の発覚を契機として県議会議員の辞職に追い込まれるなど相当程度社会的制裁を受けたこと、被告人田村久は、判示第四の犯行について、被告人田村鐡舟の関与を否認しているものの、反省している旨述べていること、両被告人とも、同種前科がなく、妻や内妻が被告人らを監督する旨誓約していること、未決勾留が長期に及んでいること、その他被告人らに有利な諸般の情状を十分斟酌しても、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処するのは誠にやむを得ないものと思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新田誠志 裁判官 山本武久 裁判官 永谷典雄)

別紙(一) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(四) 脱税額計算書

別紙(五) 脱税額計算書

別紙(六) 脱税額計算書

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